【恋愛雑記062】女性が男性に、男性が女性に、絵を描くとき
「マンガの神さま」と呼ばれるほど高名なマンガ家の先生が、生涯、大切になさっていた絵があります。
昔、先生の著書で読んだ話です。
子どものころ、風邪をひいて何日も寝ていたとき、お母さまにおねだりして、パラパラマンガを描いてもらった。
本のすみっこの、鉛筆書きの小さな絵。先生は、それが嬉しくてたまらなかったそうです。
布団の中で、何度も何度もめくって、飽きることがない。
お母さまは、絵の苦手な女性だったそうです。いつもなら、絵をせがんでも描いてはくれない。
だから、子どものときの先生にとって、ようやくお母さんが描いてくれた、特別な絵だったのです。
晩年、そのパラパラマンガの現物を、嬉しそうにめくっている先生の姿が、ビデオに残っています。
私自身の子どものとき。
といっても、中高生くらいですが、手紙にいつも何枚か、小さな絵を入れてくれる男の子がいました。
その時々のアニメやロボットや、無心に描きとめたもの。
女の子に向けて描くような絵ではないともいいます。
そのはずなのですが、絵を見るたびに温かくて嬉しい気分になって、次の絵が来るのが待ち遠しかったものです。
私は彼の彼女でもなんでもないのに、彼は一生懸命、自分の時間やエネルギーを使ってくれたのです。
男の子のああいうのって、何だろうと思うのですが、私もたぶんこの先、その絵を忘れることはないんでしょう。